とっておきのお酒の話vol19

いよいよ最終回となりました。 

4.日本酒(清酒)

4-11.酒造好適米について

第16回でお話しましたが、滋賀県が開発した酒造好適米に「吟吹雪(ぎんふぶき)」があり ます。山田錦と玉栄(ぎょくえい)の交配種で、山田錦の栽培し難さを改良した品種です。品 質面は遜色ありません。各地の酒蔵でも使用されています。 

 

酒造好適米の条件は、

①大粒であること(精米で削っても無くならない)、

②心白があること、

③タンパク質や脂肪が少ないこと、

④吸水率が良いこと、

⑤外硬、内軟性に富むことの5つが挙げられます。

 

 生産量が限られた高価なお米です。最も有名な山田錦の代表的産地の兵庫県の特A地区(三木市、加東市)の特上米は生産量も少なくコストも跳ね上がります。山田錦は全国で栽培されていますが、特A地区、A地区、B地区、C地区の4段階に分けられています。

⑴ 酒造好適米の生産量 

お米生産量の約95%は飯米で、酒造りに使用されるお米は約5%しかありません。その中でも酒造好適米(約100種)は僅か約1%です。

  ⑵ 生産量五大品種 

 *山田錦

第16回、滋賀県の酒特集の中にも登場しましたが、酒米の王様と呼ばれています。「山田穂(伊勢山田地産)」を母方、「短稈渡船(滋賀渡船2号)」を父方に持つ交配種、大正12年に誕生し90年以上の歴史があります。命名は昭和11年です。総生産量の8 0%が兵庫県産です。温度差が10°C以上の山麓や谷間が適地で、背高ノッポのため台風など の強風で倒れ易く栽培が難しい品種です。 

 

五百万石

「菊水」を母方、「新200号」を父方に持つ交配種、日本海沿岸を中心に幅広 い地域で普及しています。昭和13年新潟県長岡で誕生し、昭和32年に新潟県産米の生産量が 500万石を突破したことを記念し命名されまた。穂数は少ないですが、一穂当たりの籾数が多 く、心白の発現率も高い。 

 

美山錦(みやまにしき)*

「北陸12号」を母方、「東北25号」を父方とした交配種「た かね錦」にγ線照射処理して出来た突然変異種、寒冷な地域に栽培が広がり若く可憐な酒質を 生みます。昭和53年長野県で誕生。長野県の美しい山の頂のような心白を持つことから命名されました。関西以西では使われている例はほとんどありません。

 

雄町(おまち)*

濃醇な味わいが魅力の江戸末期から続く最古参の酒米、幕末以来多品種との交配を受けることがない純種。岡山地区での栽培が多い。

 

八反錦(はったんにしき)*

酒どころ広島が育む「八反」ファミリーの主力品種、 ファミリーには、他に八反草、八反、八反1&2号、改良八反流があります。 

 ⑶ 頭角を現す第二世代米 

 *越淡麗(こしたんれい)*

「山田錦」と「五百万石」を掛け合わせた酒米のサラブレッド。

 

出羽燦々(でわさんさん)*

銘醸地山形の人気を支えるエース品種、出羽三山をもじって命名、打倒山田錦を宿願として開発された。

 ⑷ 歴史ある個性米 

 愛山(あいやま)*

「山田錦」と「雄町」を父方とするが「もち米」の血が混じる交配種、芳醇で旨味のトレンドに合う独特な甘味が特徴。

 

*金紋錦(きんもんにしき)*

北信濃だけで栽培される熟成酒に向く酒米。

 

 

⑸ 今後期待の新品種 

彗星(すいせい)*

豊かな味わいで注目度高い北海道産酒米の新星。地球温暖化により道産米に注目が集まる。洞爺湖サミットで来賓客に振る舞われたお酒に使われた。

 

吟(ぎん)のさと

山田錦をこえるか!新世代酒米のダークホース、背丈が低く倒れにくく、収穫量が多く、九州などの温暖化にも適する。

 

 

⑹ 注目の復活米 

強力(ごうりき)*

濃醇型酒質を生む西日本を代表するいにしえの酒米、米の増産と国力増強を願う勇ましい名前。

 

(いわい):古都*

京都の伝統とモダンな雅味を伝える復活米。

 

亀の尾(かめのお)*

全国的な人気を誇る復活米の先駆、ササニシキ、コシヒカリもこの血を受け継いでいる。

 

 

人気漫画「夏子の酒」(作者:尾瀬あきら)に登場する幻の酒米「龍錦」のモデルとして脚光を浴びた。94年にテレビドラマ化された。(主演:和久井映見、中井貴一)

4-12.酒造用の水について

 ⑴ 酒造用の水の条件

  日本は昔から水のきれいな国として知られています。日本酒成分の80%は水ですので、その品質がお酒の味わいに大きな影響を与えます。酒造用の水は、地下水や河川の水を利用しています。品質は水道水の基準に準じていますが、水道水より規格が厳しくなっています。酒造用の水は、使用する米の総重量の約50倍も必要になります。

 有効成分にはカリウム、リン酸、マグネシウムがあり、微生物(酵母、麹)の栄養源となって増殖し発酵を進めます。しかし、これらの成分が足りない軟水では発酵が正常に進まなくなりますし、また、成分が多すぎる硬水でも進まなくなります。そのため、これらの成分を適度に含む軟水~軽硬水の範囲が適しています。ヨーロッパは石灰岩質の土壌なので、ほとんどが硬水です。輸入販売されているエビアンなどは、飲料水としては旨い水なのですが、酒造りには向きません。

 

以下の成分は有害となりますので含まないものが良い水となります。

・鉄 :鉄イオンが色を濃くし香味を悪くする。

・マンガン:紫外線による化学変化(着色)を促進する。

・アンモニア、亜硝酸は、動物や植物の枯れ死体の窒素化合物が分解生成した成分のため、汚染水源の可能性が大。

 ⑵ 酒造用の水の硬度

  硬度にはドイツ硬度(*1)アメリカ硬度(*2)があります。上表のように軟水、硬水の 目安として、一般区分ではドイツ硬度基準で「軟水(硬度10以下)」、「中硬水(硬度10 ~20)」、「硬水(硬度20以上)」に分けられます。 酒造用の水は解釈が異なり、比較的硬水(軽硬水)だと言われている灘の宮水でも、一般区分 に照らし合わせると軟水に属します。

 

軟水は昆布などの和ダシに使うと旨味成分を引き出し、日本茶や紅茶の渋みや苦味を引き出し、風味をハッキリさせ、ご飯を炊くと柔らかく炊き上がります。一方、硬水は運動後のミネラル補給、ビーフシチューなどの肉物の臭みをマイルドにし、臭みの元になる灰汁(アク)を出し易くします。

フランス料理では直接水(硬水)を使わずに蒸したり炒めたり、牛乳やワインを加えたりしますが、日本料理は煮物、汁物など、そのまま水(軟水)を使う料理が多くあります。

 

(*1)100mlの水にカルシウム、マグネシウムが酸化物として1mg含まれている時に硬度1d hと言います。

(*2)1000mlの水にカルシウム、マグネシウムが炭酸塩として1mg含まれている時に硬度1 ppmと言います。上表の下欄にドイツ硬度との数値対比が成されています。

 

日本酒のみならずワインやウイスキー造りでも、それらの酵母は硬水を嫌いますので水を加えず、ワインはぶどうに含まれる水と糖分のみで発酵させるのです。しかし、ヨーロッパでも島国のイギリスは、比較的日本に近い軟水のため、その水を使ってウイスキー作りが盛んになった背景があります。


19回目ありがとうございました

 

以上でK氏から頂いたお酒の話は終了でございます。

 

最初の軽い話からどんどん専門的な話になり、最後は酒のソムリエになれそうな錯覚をもってしまいそう、

お酒をいただく度に色々な話を思い出しながらいただくと、今までの味とはチョット変わってきますね。

 

 

Mr.K  いろいろな話ありがとうございました。

こっそり思いをはせながら、今日も一杯 🍶