とっておきのお酒の話vol.18

4.日本酒(清酒)

4-9.お酒の香り(吟醸香)の成分は?

  吟醸酒は何とも言えない繊細な香りがします。その香りの成分は、PPmオーダーで含まれる エステル成分なのです。ご存じのように、エステルはアルコールとカルボン酸が化学反応して 造られます。酵母がくれたご褒美なのです。代表的な2つのエステルを挙げると、 

 ①カプロン酸エチルエステル(エチルアルコールとカプロン酸):高級リンゴ(富士、サン富士、陸奥)の香り(7号酵母が生成性高い)

②酢酸イソアミルエステル(イソアミルアルコールと酢酸):メロン、バナナなどのトロピカルフルーツの香り(9号酵母が生成性高い)

なお、バナナは酢酸ペンチルエステル、リンゴは吉草酸ペンチルエステルでも同じように香ります。

 

  その他の香りのエステル成分として、

 ①ラズベリー:蟻酸エチルエステル

 ②パイナップル:酪酸エチルエステル

 ③洋ナシ、アプリコット:酪酸ペンチルエステル

 ④オレンジ:酢酸オクチルエステル

4-10.酵母のお話し

 酵母は日本酒造協会系酵母、自社蔵付酵母、それに各都道府県オリジナル酵母があります。協会系酵母には通常酵母と泡なし酵母、面白酵母があります。紙面の都合上、協会系酵母についてご紹介し、各都道府県オリジナル酵母は割愛します。

⑴通常酵母

上表のような種類があり、それぞれに番号が付けられています。明治39年に協会1号酵母の頒布が始まり、この酵母は灘の「桜正宗(さくらまさむね)」から分離されました。正宗の名は臨済宗の経典に書かれている「臨済正宗(りんざいせいしゅう)」から、せいしゅう⇒清酒の発音が似ていることから採ったと言われています。「まさむね」と呼ぶようになったのは、名刀「正宗」のような切れ味の鋭いお酒にあやかったのです。その後「OO正宗」と銘打ったお酒が次々に登場し、正宗と名の付くお酒は、現在では全国各地に百数十種あります。

 

次に2号酵母の「月桂冠」、大正にかけて3~5号酵母の広島系が登場、その中に山根本店「酔心」の3号酵母があります。

 

  酔心は日本画の横山大観画伯愛飲のお酒として知られ、「酒造りも絵を描くのも芸術」と言わしめた逸品です。大観画伯は米粒を食べないで3度々お酒を呑んでいたようです。山根酒造の社長が懇意となり酒樽を毎月プレゼントしていました。その返礼に、画伯が亡くなる昭和33年まで日本画が届けられ、今では酔心大観記念館が設けられ、数多くの日本画が展示されています。

昭和に入り10年に新政酒造(秋田)から「新政6号酵母」が、戦後の21年に宮坂酒造(長野)から「真澄7号酵母」が、28年には熊本酒造研究所から吟醸の王様と呼ばれる「香露9号母」が分離され、香り高い繊細な味わいのお酒が造れるようになりました。その後、10~15号酵母が登録されました。10号の発祥蔵は、俺の蔵だー!と我も我もと名乗りを上げて(表中の5蔵)混迷、どうも「八鶴」が本命のようです。11号酵母はアルコール耐性酵母と言います。通常の酵母では自分の造ったアルコールで殺菌され死んでしまいますので、高いアルコール濃度(20%以上)のお酒が造れないのはそのためです。現在では1~5号酵母は、日本酒造協会より頒布を取りやめています。

 表中にK-6G、K-7Gと括弧で記載していますが、これは遺伝子的に協会6号酵母グループ、協会7号酵母グループに属していることを意味しています。

⑵ 泡なし酵母

上表のように601~1801号があります。これにも番号が付けられていますが、601号は601番目に登録された酵母ではなく、通常泡あり6号酵母と性質は同じです。6に01を付けて601号と表記することになっています。1801号は泡あり18号酵母に01付けたものです。戦後に島根県の酒蔵(簸上《ひかみ》酒造:玉鋼、七冠馬)で見つかった突然変異酵母で、現在酒造りに使われている70%がこれです。発見した蔵元は「一向に泡がでないので失敗したのかな~捨てよう」と思ったそうですが、どうせなら最後まで待って味を確かめてからでも遅くないと思い待ちました。そうした処、とっても旨いお酒が出来ていたのです。泡あり酵母との違いは、細胞壁が疎水性ではなく親水性だったのです。泡が出ないのではなく、発生した炭酸ガスの気泡表面に酵母が吸着されず、直ぐに泡が壊れ易かったのです。泡が溢れるのを防止するため、泡を潰したり汲みだしたりする役目の「泡守」が寝ずの番をしていました。泡が出ないようになったことで、泡守が要らなくなったため人件費削減と大量仕込みが出来るため一度に沢山造れ、お酒のコスト低減に大きく寄与しています。話しは飛びますが、SBの接着促進モノマーの4-METAは疎水性(アクリル基)と親水性(カルボン酸)を合わせ持っています。カルボン酸が歯質に浸透し、アクリル基がMMAと結合して、樹脂含浸層の形成を手助けします。

4-METAの化学式

⑶面白酵母

赤色清酒酵母  :  10号酵母から派生の突然変異株(アデニン要求株)、核酸の一つであるアデニンを自力で構成することができず、そのため、5―アミノイミダゾールリボシドが蓄積、重合したポリマーが赤色を呈す。甘口でアルコ-ル度の低いソフトな口当たりで、女性消費者の開拓を視野に入れ開発されました。

 

尿素非生産性酵母 : 輸出用清酒向きの酵母、酒質に影響を与える尿素を生成しないのが特徴。K-701、k-901、k-1001の派生酵母で、KArg701、KArg901、KArg1001がある。

 

 

 追加で詳しいこと知りたい方はインターネット「協会系酵母」で検索して下さい。

 

引き続き第19回(最終回)は、お酒の三大原料(酵母、米、水)の内、米(酒造好適米)と水についてお話をする予定にしています。

 

Mr.k


18回目あいがとうございました。